なにかと厄介者扱いされてばかりの体脂肪。けれども、そんな脂肪が薄毛に悩む人たちの救世主となるかもしれません。
脂肪と薄毛治療がどう関係するのか?
その鍵を握るのは脂肪に含まれる「幹細胞(かんさいぼう)」の存在です。幹細胞とは、 「新しい血管」 や「新しい脂肪」、「毛髪のもとになる細胞」などに分化(変身)することができる万能細胞のことです。
2012年に京都大学の山中教授がノーベル賞をとったことで一躍有名になったあの「iPS細胞」も幹細胞の一種です。
発毛は、髪の毛をつくる「毛包(もうほう)」という部分に存在する毛包幹細胞が、発毛スイッチをONにすることで起こります。
そのスイッチを入れる役目をするのが皮下組織に存在する「脂肪前駆細胞(しぼうぜんくさいぼう)」であることが、2011年アメリカの研究によって発表されました。
この研究から、頭皮の皮下組織にある脂肪が少なく、脂肪前駆細胞の働きが悪くなっていることが薄毛の要因の1つだと考えられています。
そこで研究者たちが注目したのが、腹部やお尻、太ももなどから採取した脂肪幹細胞を頭皮に移植し、脂肪前駆細胞と毛包幹細胞の働きを活性化させるという治療法です。
なぜ脂肪幹細胞が選ばれたのか? 理由は2つあります。
ひとつは、脂肪には幹細胞が多く含まれているので採取が容易であること。
もうひとつは、由来する細胞に優先的に分化(≒変身)すること。つまり「脂肪」から抽出した幹細胞は、発毛に必要な「脂肪前駆細胞」に優先して分化する特徴をもっているためです。
毛髪における再生医療には、「ケラステム」という専用機器を使って抽出した幹細胞を頭皮に移植するという方法が採用されています。ケラステムはアメリカで開発され、やがて日本とイギリスで共同研究が進み、実用化されました。そしてついに日本、アメリカ、イギリス、スイス、スペインの5ヵ国で治療がスタート。2015年現在、日本でこの治療を受けられるのは聖心美容クリニックだけです。
※CEマーク…EUで販売される製品に対し、安全基準を満たしていることを証明するマーク
幹細胞移植は、採取した脂肪から移植用の成熟脂肪細胞(すでに脂肪に分化した大人の細胞)と、ケラステムで抽出した幹細胞を混合させ、それを頭皮に注入する方法で行います。幹細胞と成熟細胞を注入することで脂肪前駆細胞が活性化し、成長因子が分泌されて毛包幹細胞に作用します。それによって休止期に入っていた毛髪が成長期に移行し、発毛を促すというわけです。
移植後は2〜3週間のダウンタイムがありますが、仕事ができないほどの痛みや腫れはなく、3ヵ月から半年の間にヘアサイクルが正常化します。大切なのは、移植された脂肪が生着できるよう血流をよくすること。頭皮の血行をよくするミノキシジルや、成長因子が含まれるKIPスカルプヘアエッセンスなどを併用するのがおすすめです。
脂肪細胞は3〜10年の寿命と見られており、成熟細胞が死ぬ間際に発するサインを近くにある幹細胞がキャッチし、脂肪へと分化していくのです。幹細胞の数が尽きてきたら補充する。これを繰り返すことで毛髪は再生されていきます。
他の治療で期待どおりの効果が得られなかった人、飲み薬に頼りたくない人、何度も通院することが難しい人には特に価値の高いこの治療法。今後ますます注目されていくでしょう。